パンとスープのお店 『TROIS (トロア)』

トロア外観 駅ナカに生まれた障害者雇用。

パンとスープのお店
  『 TROIS ( トロア ) 』

東京都 NPO法人 みなと障がい者福祉事業団

インタビュー風景(動画)は WAM NET で見れます。

地下鉄の駅構内に立地

お店の外観  都営地下鉄大江戸線大門駅-ビジネス街の中心地である東京都港区浜松町にあるこの駅は、朝夕は通勤客でごった返します。最近話題の「駅ナカ」に障害者雇用の場が生まれました。パンとスープのお店『TROIS(トロア)』です。NPO法人みなと障がい者福祉事業団の3番目のお店として、2008年3月19日にオープン。TROIS(トロア)は、フランス語で「3」。“アン(1)、ドゥー(2)、トロア(3)のトロア”です。この名前には、ホップ!ステップ!!ジャンプ!!!と障害のある人がステップアップしてほしいとの願いが込められています。焼きたてのパンとこだわりのコーヒー、栄養満点のスープを取りそろえています。
  オープンからさかのぼること約1年。「駅ナカという立地を使って、先駆的な取り組みをやってみたい」と、東京都の交通局から事業団に打診があったことが出店のきっかけでした。都営地下鉄の青山一丁目駅と大門駅の2つの候補地が提示されましたが、交通量データや、実際に現地に出向いて人の流れを確認するなどした結果、大門駅に出店することになりました。
  スポットライトのあたった明るい店内。白い壁に大きなロゴマーク。ウィンドウにならぶクロワッサンやサンドウィッチ。おしゃれで便利な店ができて、この駅を利用する通勤客に好評です。

発達障害の人に働く場を提供したい!

レジでの接客の様子  TROIS(トロア)は、自立支援法に基づく福祉サービス事業所としてではなく、一般就労の場として経営を行なっています。「障害者手帳を持たない発達障害者にも働く場を提供したい」という大森事務局長の 強い思いから、「福祉の枠組みにとらわれずに採用できる雇用」のスタイルを選択しました。障害者手帳の取得が難しく、「働く力を持ちながら、就職できずに引きこもりがち」な発達障害者の就労に課題を感じていた大森さんは、新たな障害者雇用の場づくりに挑戦することにしたのです。「恵まれた立地を生かして障害者の就労促進に役立つ新たな取り組みを進めよう!」障害者支援の実績、福祉喫茶の経験、そして高い使命感がTROIS(トロア)を生み出しました。
  TROIS(トロア)では現在、知的障害者と発達障害者が働いています。採用は事業団内の福祉喫茶「たんぽぽ」の他、港区の広報と、ハローワークで募集をかけて行いました。現在、時給は750円。当然のことながら、社会保険にも加入し、有給休暇も取得できるという一般企業と同じ労働環境を提供しています。
  とはいうものの、オープンから4ヶ月経過した現在、当初3人採用した発達障害者のうち、1人は退職、1人は休職中という厳しい状況です。「こちらからコミュニケーションを取ろうとしても、悩みを打ち明けてくれない。自分の気持ちを発散できないから、鬱々とした気持ちが蓄積し、悪循環になってしまう。知的障害の人とは違った難しさがある。」事業団の職員として、知的障害者支援経験の長い小嶋店長は、率直にとまどいを語ります。しかしながら、残った一名の発達障害のスタッフは、職場環境にすっかりなじみ、自分の役割をしっかり果たして活躍しています。今ではレジを任せられるまでに成長しました。「従業員一人ひとりが力を発揮して、長く働ける職場をつくりたい。店の経営と従業員の育成ともに自分の仕事。」引き締まった店長の表情にリーダーとしての決意が感じられます。小嶋店長の挑戦はまだ始まったばかりです。

お客様に合わせた商品・サービス

きれいに陳列されたパン  営業時間は7:00から20:00(土曜日は17:00)まで。定休日は日曜・祝日。お客様のニーズ、利便性を考えての営業時間です。駅地下構内で営業するとはこういうこと。福祉の甘えは通用しません。障害者従業員6名、健常スタッフ4名が1日6時間勤務を基本として、シフトを組んでこなしています。
  主力商品はもちろん、焼きたてパン。ヨーロッパ直輸入生地を使ったクロワッサン、デニッシュなど、ちょっぴりおしゃれな顔ぶれです。会社帰りに立ち寄って、翌日の朝食用に数個まとめて買ってくださるお客様も多いとのこと。狭い厨房スペースでは、小さなオーブンがフル稼働しています。1回20分程度で32個~36個のパンを焼成。焼きあがったら次々に棚に並べていきます。香ばしい匂いが商品をさらに引き立てます。おすすめは「あんこクロワッサン」。クロワッサンにあんこという組み合わせが受けて、ファンになってくださる方が増えています。TROIS(トロア)の一番の売れ筋商品です。

ラッシュアワーが勝負。逆に日中は長いアイドルタイム。エキナカ商売、そんなに甘くない

 お店が忙しさのピークを迎えるのは、やはり朝。7:30~9:00の通勤ラッシュ時です。この1時間半にどのくらいのお客様にご来店いただけるかが勝負!「朝、雨が降るとうれしくなります。」と店長。普段は地上を歩いて通勤する人が、雨の日は、なるべくぬれずに会社に向かおうとするために、地下通路を通るため、TROIS(トロア)前の通行量が一気に増えるのだそう。かさを持ってコンビニに寄るのも面倒なので、「ここで朝ごはんを調達しよう」というお客様もいて、店にとってはまさに恵みの雨なのです。
  逆に13:00~16:00は客足が途絶える時間帯。この客数が少なく売上がとれない時間帯(アイドルタイム)の対策として、パンの配達を始めました。現在の配達先はハローワークやみなと清掃事業所、区役所などの公共的な施設が中心です。今のところ売上実績としてはわずかですが、今後は民間企業も含めて配達先を積極的に増やそうと考えています。暇な時間だからと言って遊んでいては、採算がとれません。
  一方で、配達は、障害者従業員の気持ちをリフレッシュする面では大きな役割を果たしています。TROIS(トロア)は、店舗面積4坪の小さな店舗。地下の小さなお店の中に一日中いると、気分が滅入ることもあります。配達のために外に出て、お客様に接することが良い気分転換になり、障害者の気持ちを保つ上で効果的とのことです。

正確に早く!高いサービスレベルに全員で挑戦

トロワ店長の小嶋さん  TROIS(トロア)は外観からは障害者が働くお店だということはわかりません。当然のことながら、お客様はベーカリーとして普通のサービスレベルを求めています。ましてや、ここは駅構内。朝夕のラッシュ時に、パンの袋詰めや精算に時間がかかっているようではお客様に立ち寄っていただけません。実際、開店当初には、対応のスピードや商品の取り違いなどにより、たびたびクレームが寄せられました。現在、朝のラッシュ時にはお客様にご迷惑をおかけしないことを第一優先に、健常スタッフが前面に出て接客をこなしています。目標は、スタッフ全員が正確でスピーディーな接客ができるようになること。自信を持って店頭に立てるよう、障害者スタッフも頑張っています。
  一方で、ゆるやかに時間の流れる午後などにいらしたお客様が「このパンおいしかったよ」「また寄らせてもらったわ」と言葉をかけてくれることがあります。温かい励ましの言葉は従業員にとって何よりのエネルギー。「このお店で働いてよかった」「もっと仕事がしたい!」障害者スタッフの言葉から、大変だけれど、もっと頑張りたいという力強さが伝わってきます。
  開店から4か月。お店で働く全員が、この仕事にようやく慣れたところです。人の多く行き交う駅構内という立地でいかに経営を軌道にのせるか、障害者スタッフの職場として定着・雇用拡大を図るための課題をいかに解決するか、試行錯誤の挑戦が続きます。

取材日 : 平成20年7月

今回のポイント

  1. 駅構内立地のベーカリーという業態で、発達障害など手帳のない方の雇用機会を創出している。
  2. 早朝営業、スピーディーな接客など、お客様視点に立った福祉の甘えのない経営を実践している。

経営コンサルタント 早坂 健治 

施設概要

施設名 TROIS(トロア)
開所時期 平成20年3月
設置者名 NPO法人 みなと障がい者福祉事業団
利用者数 6名(アルバイト込)
所在地 東京都港区浜松町2-3-4大門駅 B1Fラッチ外コンコース(A6出口そば)
職員数 2名
電話番号 03-5776-0113
FAX 03-5776-0113
代表者 理事長 堀 信子
連絡担当者 事務局長 高木 俊昭
施設種別 NPO法人
事業内容 パンとスープの製造・販売
障害種別 発達障害、知的障害、精神障害
平均工賃 時給750円 給料7~8万円